At Home works

赤ちゃんがやってきた

2013年に第一子を妊娠してから、母親としての自分の身体や心境、家族のあり方など、様々な変化に寄り添う日々を綴る林彩子のコラム

その30 0歳0ヶ月 

生まれた病院は
母子同室の四人部屋だったので、
それぞれの赤ちゃんが交互に夜中でも泣く。
お互いさまなのに、
それでもお母さん達はまっさきに
シーッ
と赤ちゃんに声を掛ける。
周りはやっと寝かしつけたばかりだから
気を遣うのは当然とはいえ、
同じ状況だとわかっているのに
静かにさせなきゃ
と思うこの状況はなんだか切ないな、
と思っていた。

あまりに泣き止まないと、
寝ぼけ眼で授乳部屋に出て行ったりもした。
するとやはりギャン泣する赤ちゃんを
寝癖のお母さんがあやしていて、
お互いにトホホ顔で笑いあいながら
でも可愛いんですよねーと話して和んだりした。

2. 3時間で生まれようと
60時間掛かろうと
帝王切開でも自然分娩でも、
みなそれぞれ必死に生んで
一生懸命生まれたんだ。
命が精一杯の声で命を叫ぶのは
当然だろう。

そう思ってはいても、
まだ慣れない新米ママは
一時間おきに泣いている赤ちゃんに途方にくれる。

寝ている時は自分も寝るチャンスだから
おっぱいをあげている時に携帯で 
生まれました、の連絡をしていた。
赤ちゃんはなかなか泣き止まない。
どうしていいかわからず、
初めて一夜を明かした時はクタクタになっていた。

その日の面会時間にとまそんがきてくれて、
嬉しそうにユパ様を抱きしめる。
じっとただただ愛情をこめて
愛おしくて仕方ない、と抱きしめる。
するとあんなに泣いていたのが
安心した顔をして全く泣かない。

その姿をみて、
とてもとても反省した。

そうか、おっぱいをあげるから、
オムツをかえるから、
泣き止むんじゃないんだ。
あなたを愛してるって伝えることが
大切なんだ。
生まれてきた途端に勝手に戸惑って、
お腹にいた時のように話しかけることも忘れてた。

その夜から大切なコミュニケーションの最中であるおっぱいの時に
携帯を触ることを自分のなかで禁止した。
可愛いね、会えて嬉しいよ、
と伝えながらおっぱいをあげたら
途端に意思疎通がスムーズになり、
こちらもよく眠れるようになった。

生まれた日

その29 0歳0ヶ月 

陣痛のクライマックスは
赤ちゃんが産道を通る時だ。

普通に考えてどうにも無理がある。
でも赤ちゃんも必死に、
骨格を一回変えてでも出てこようとしている。

その辺りでの陣痛は一分おき一分間の激痛、のように頻繁で、
その一瞬のヌケの時間にいきまずに力を抜かないと赤ちゃんが苦しいという。
なんとか深呼吸をして
ユパさまが楽なように楽なようにと言い聞かせる。
そして痛みの波が来たらそれに乗って
ユパさまに会える、会える、と必死にいきむ。
そうしながら手を伸ばしてユパさまの頭を触ってみた。
指先に髪の毛の感触

もうすぐ会えるんだ

少しずつ、負担をかけないように、
こちらを気遣いながら
長い時間をかけて
ユパさまは生まれた。

ほら!!彩ちゃん!
ユパさま生まれるよ!!!
とみっこさんに言われて必死に目を開けると、
髪の毛もたっぷりの
大きな赤ちゃんが出てきたのが見えた。

やっと会えたね
よくがんばったね
生まれてきてくれてありがとう
生まれてきてくれてありがとう

へその緒は、
みっこさんに切ってもらった。
すぐに胸に抱かせてもらうと、
しっとりと、甘く、重い。

このタイミングでとまそんが電話をくれた。

おつかれさま、よくがんばったね

声を聴いた途端に急に実感が湧いて涙が溢れる。

そして映像モードに切り替え
とまそんがユパ、ユパ、と呼んだ
途端にユパさまが目を開けて
声の源を必死に目で追った。

それは、ずっと二人で話しかけてきて本当によかったと
胸がいっぱいになる出来事だった。

その28 0歳0ヶ月 

私たちの選んだ病院では、
基本的に最後まで助産師さんが
出産をみてくれる。
そして畳の部屋で生むことができる。
私は立会いに義母ととまそんを希望していて、
三日間、実の両親も様子を見に来てくれた。

この痛みがいつまで続くのか誰にもわからない中、
背中をさすってくれたり、
うまく呼吸がとれなくなりそうなとき
一緒に呼吸を整えてくれたり。
とまそんは其の間、
病院から仕事に向かい病院に帰ってくる
緊張の日々だった。
出産のタイミングには
どうしても合わなかったけれど、
一番不安で辛い時にとまそんがずっと
付き添ってくれていて本当によかった。

お義母さんは感動して途中で何度も泣いてた。
よくがんばってる、
とても上手にできてる、
ユパさまもうすぐだよ、
と常に声をかけてくれて
呼吸のリズムを保たせてくれた。

これからの日々に
この三人での経験が
どれだけの糧になるかとおもう

その27 0歳0ヶ月 

陣痛がきて、出産をする。
それはほとんどの人が知っていると思う。
しかして陣痛とはどんな風に来るのか、
私自身も出産を間近に控えるまで全く知らなかった。
知っているのはとにかく痛い、もう死んだ方がマシってくらい痛い、
ということ位。

陣痛というのはずーっと痛いわけじゃなくて、
ある時予兆のように始まる。
最初はまるでご挨拶のような痛みが一分位続いたら30分けろっとした時間、
そしてまた一分間の痛み、30分の何でもない時間、という風に始まる。
そしてケロッの時間は本当にかけらも痛くない。
それが15分間隔、10分間隔、
という風に痛みの強さと共に
間隔もせばまってくる。
これが七分間隔になる位で
やっと病院が受け入れてくれる。
本人としてはこの時点で結構痛いので、
どこで生まれるのかわからなくて
ドキドキして早く早くと思ってしまうのだけれど、
大抵の場合ここからが長い。

この辺りで緊張し過ぎたり
構えすぎると本番まで気力も体力ももたない。
なので、あくまでも平常心で食べられるときにはしっかりご飯もたべる。
深く息を吐いて痛みを逃す。
この痛みは赤ちゃんを迎えるための準備で喜ばしいこと、
とイメージをするのも大切。

人によってそこから生まれるまでにかかる時間はまちまちだけれど
初産は割と時間がかかると言われている。
私は陣痛を感じてから実に60時間という長い長い道のりだった。
その長い時間の中でも、
潮の満ち引きの様に大きなうねりのような波があったきがする。

そしてまだかまだかと思ううち、
なるほどこれが出産の痛みなら
先ほどまでのは確かに痛いうちに入りませんな、
という位の時間に突入する。
そこで初めて病院側も
生む準備にかかるのだった。

その26 誕生! 

とうとうその日がやってきた。
2014 4/15日満月の日に
3434gの女の子が生まれました!
ユパさま デビュー

まさに予定日だった13日の
朝の4時から陣痛が始まり、
その日の夕方16時に入院。
15日の16:49出産まで三日三晩の荒業で、
よく意識なくならないなと感じるほどの痛みと共に出産を終えるとくたくたさだったけれど
初めて会えたユパさまは
全然泣かないで満ち足りたお顔だったので
ああ、きっとものすごく本人として
満足のいく初めの一歩だったんだろうなと思った。

生まれてきてくれてありがとう。
やっと会えたね。

ユパさまデビュー
これからも宜しくお願いします!

指を持つ花紅

その25 10ヶ月 

予定日の前日、
友人でカメラマンの宮下マキが
臨月の記念写真を撮りにきてくれた。

彼女はいつもテーマを決めて
ドキュメントな写真を撮る人で
今はちょうど
妊婦さんの写真を
撮るワークをしている

あと少しで分離してしまうから
大きなお腹を撮ってもらえる
ギリギリのチャンスでしかも
それを友人である彼女に撮ってもらえることが
何よりの記念だと思う

基本その人の家で撮るスタイル
で、入ってすぐにここではこんな風に、
ここではこんな角度でと
速攻で決めていく。
格好いい。
格好いいのに、慣れない撮影の間
柔らかい雰囲気で緊張させないのは
さすが。
(UPした写真は構図を拝借して、
とまそんが記念に撮ってくれたものです)

今回は無理を言って
海でも写真を撮って貰った。
暖かい春の海。

久しぶりの再会に、
おしゃべりも止まらない。
楽しい楽しい時間。
途中ランチした「亀時間」でも
お茶をした「ミルコーヒー&スタンド」でも、
ユパさまもうすぐねと声をかけてもらって、
駅からの帰り道にこれまた
沢山の友人と遭遇。
大きなお腹を沢山のひとに
見てもらって触ってもらって
激励をもらった帰り道
とまそんが
こういうことだよなあ。
とつぶやく。
こういうことなんだよ、
この時を待ってたんだよユパさま
きっと時は満ちたって気がする。

その翌日陣痛がはじまった。

その24 10ヶ月 

普段車で通る道をゆっくりと歩く。
と、見える景色が違う。
あったかいね、桜がきれいだね、
いい季節だね、
とお腹に話しかけながら。
普段いかに時間に追われているかを感じる。
生まれたらきっと
こんな風にゆったりはしていられないから、
贅沢な時間だと思う。

鎌倉はいく先々で友人に出会う。
ユパさまもうすぐだねー
と皆が声をかけてくれる。

予定日まで一週間
一緒にいるのもあと僅か。
この頃になってやっと
覚悟が決まるというのか
待ちくたびれるというのか
気持ちの受け入れ体制が整ってくる。

もちろんロシアンルーレット感は
ぬぐえないし、
ドキドキはしてるし、
少し痛いときはハラハラするけれど。
とまそんは仕事に行くたび
陣痛きたら連絡してね、
と必ず言って出掛ける。

いつ産まれてこようと思うのかなー

と言ったら

ある朝ふと目が覚めるように
その時を迎えるんだと思うな。
母体もユパも準備か完了したとき
全てがそうであるように
動くのだと思う

という。

いつが私たちの その時 なんだろう。

美しい季節に
産まれてきてくれることに感謝
きっとこの世界が好きになる。

その23 10ヶ月 

妊婦の身体を美しいと思う。
うちがわから張るかたち
自然の調和

果物も植物もなぜあんなに美しいのかって、
内側から命が張っているからなんだろう。

世の中の人全てが
これを美しいと感じるわけではないだろうとは思う。
でも
パートナーだけはそう感じていたらいいなと思う
そこには愛おしい存在がいるのだから。

母のへその緒と赤ちゃんのへその緒が、
繋がってるのだとかなり後期まで思ってた。
おへそに息を吹き込もうとふざけるのに、
ダメだよユパ様が爆発しちゃう
と笑ったら
…へその緒繋がってないと思うよ
と言われて衝撃を受けた。

そういえばこないだ産院で読んだ絵本に
お腹の中の図解があって、
赤ちゃんのへその緒が背中側の胎盤に繋がってるのをみて、
なんで遠回りしてるんだろう
と思ったのだった。
たしかにこちらのおへそと直結してたら
どこから栄養が入るのかって話だ。
でもこれって勘違いしてる人
沢山いるんじゃないかな
いない かな

その22 10ヶ月 

私の妊婦ライフは
周りからみると、

知ってたけど、呑気

なのだそうだ。

高齢出産で且つ初産のくせに
臨月に入ってやっと
身の回りのものを揃えたり
部屋の掃除をし始めたりノロノロやっている。

私は知識も意欲もあまりないけど
周りの人に恵まれているから
色々と教えてくれたり
気遣ってくださる人に助けられている。
母乳マッサージやってる?
呼吸法はこういうのもありますよ
これだけは揃えておいた方がいいよ
必要ならありますよ

そういえば
これだけはあった方がいい、
と多くの先輩の助言によって
他は対して揃ってないのに真っ先に買ったのが
ベビバスと爪切りだったのが
なんだか面白かった。

前もってあまり準備をしてないから
イテテテ明け方足がつるなーとか、
臨月に入ってから足の付け根が
びっくりするくらい痛いときがあるとか、
何かと驚くけれど
調べると割と皆さんなっていて
世の中って面白いなあと思う。

つわりも出産も、夫婦関係も親子関係も、
全てのことは十人十色で
いくら勉強しても努力しても思うようにいかないのに
こうなることがよくあります、ということには
理由なんか対して解明できてないのに
しっかりなったりして面白い。

生まれたらおっぱいが出る、
飲み方なんて教えなくても
赤ちゃんはそれを知っている。
その事実ひとつとっても
生命の仕組って神秘的で面白い。

その21 10ヶ月 

うちの子ってものすごく動くけど、
これって特別なんじゃない?

とてもきれいなお腹ですね、
って今日助産師さんに褒められたよ
そりゃそうだよ、うちのユパさまが
入ってるんだから

こうやって親バカってなっていくんだなあって
感じている。

出張先の大阪から
電話越しに、お早うと聴いても
途端に喜んでポコポコしだす。
そう伝えると可愛いなあ、会いたいなあと
とまそんが言う。

一緒にいるのもあと少し、
生まれてからの練習のごとく
グリングリン、ソワソワ、
と落ち着かないユパさま。

毎日を大切に過ごそう
あと僅かで分離してしまうのだから。

6 / 8« TOP...45678
登場人物
「私」

鎌倉在住の陶芸作家
初めての妊娠出産育児に新しい発見と面白みを見出す
家族とアシスタントさんに支えられながら育児と作陶を両立中 夫、義母、娘と四人暮らし


花紅(かこ)さん

2014年4月林家に誕生した女の子
心身共に健やかな人


ユパ様

腹の中にいたときの花紅さんの呼名


 
とまそん

夫 ミュージシャン
SheHerHerHersのベーシスト
鎌倉では「小川コータ&とまそん」としても活動中
嫁の仕事の影の立役者
哲学者のような深い洞察力で子育てを楽しむ


みっこさん

同居するお義母さん 野口整体指導者として毎日忙しく飛び回るが家ではキュートなお母さん兼、ばあば
「私」の憧れの女性


アシスタントさん

「私」のアトリエAt Home Worksに来てくれるアシスタントさん達
皆が積極的に子育てにも協力
アトリエではミルク、オムツ、寝かしつけ、作陶となんでもこなす。
チームAt Home Worksとして見事な連携プレーをみせる

バックナンバー
PAGE TOP